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二つの都市のあいだに、本社機能をつくる。

二つの都市のあいだに、本社機能をつくる。

東京と北海道、二つの場所から会社を動かす。住所としての本店と、観測・統合・判断・実行・記録・更新を担う本社機能を分けて考えます。

東京と北海道を想起させる二つの風景を、一つの細い軸でつないだJOURNALING JAPAN.のキービジュアル

移動には予定があります。天候は、その予定どおりには動きません。

2026年9月、札幌で台風の進路予報を見ながら、東京へ戻る時刻を調整したことがありました。欠航してから対応するのでは遅い。まだ移動できるうちに、現在地と進路を見直す。その小さな判断について、以前「なぜ、コンパスなのか。」という記事に書きました。

振り返ると、あのとき考えていたのは移動のことだけではありませんでした。

会社を動かすうえでも、予定は必要です。同時に、予定を守ること以上に、変化を観測し、判断を更新できることが重要です。どこにいるか。何が起きているか。次にどちらへ進むか。経営は、現在地を確かめながら航路を引き直す仕事でもあります。

私たちはいま、東京と北海道という二つの場所から会社を動かしています。その実践のなかで、改めて考えるようになりました。

本社とは、どこにあるのでしょうか。

住所としての本店、機能としての本社

会社には法的な基点が必要です。会社の住所は、会社法上、本店の所在地にあるものとされ、登記や契約などの基準になります。コントローラー株式会社の本店は札幌にあり、東京にはサテライトがあります。2026年9月には、東京で事業を積み重ねてきたCOL株式会社を吸収合併しました。

住所は重要です。一方で、経営上の本社機能のすべてが、一つの建物のなかに収まるとは限りません。

経営に必要なのは、現場の変化を拾い、情報を比較し、優先順位を決め、実行へ移すことです。そして、その結果を記録し、次の判断へつなげることです。これらは同じ机を囲むことで速くなる場合もあれば、異なる場所から見たほうが精度を上げられる場合もあります。

本店所在地と、本社機能。両者は重なりますが、同じものではありません。

東京が拾う信号、北海道が拾う信号

東京では、制度、金融、人、企業、文化の変化が高い密度で交差します。新しい考え方が生まれ、事業の速度が上がり、次の選択肢が次々に現れます。短い時間のなかで多くの情報に触れられる一方、変化が速いからこそ、何を追い、何を追わないかを決める必要があります。

北海道では、土地、季節、物流、製造、生活の持続性が、より具体的な形で現れます。距離は数字ではなく、移動時間や配送条件として現れます。季節は背景ではなく、予定や品質を左右する条件になります。商品をつくることも、場所を活かすことも、地域で事業を続けることも、現実の手触りと切り離せません。

どちらが中心で、どちらが周辺ということではありません。見えるものと、見える時間幅が違うのです。

不動産を考えるとき、東京で得られる市場や制度の動きと、北海道で見える土地や暮らしの条件は、同じ判断面に並べる必要があります。商品企画や流通を考えるときも、消費の変化と、製造・輸送の現実を別々に扱うことはできません。

二つの場所にいる意味は、どこでも同じように働くことだけではありません。異なる場所から異なる信号を受け取り、その差を判断に変えることにあります。

本社機能を六つに分ける

では、本社機能を住所から切り離して考えると、何が残るのでしょうか。私たちは、次の六つに分けて捉えています。

観測する。 現場、数字、制度、社会の変化を拾う。見たいものだけでなく、判断を変えるかもしれない事実を見る。

統合する。 異なる場所から届く情報を、同じ面に並べる。意見と事実を分け、比較できる状態にする。

判断する。 何を優先し、何を保留し、何を止めるかを決める。判断しないことも含め、責任の所在を明確にする。

実行する。 決定を、担当、期限、手段へ変換する。会議の結論を、実際に動く仕事へ渡す。

記録する。 何を根拠に決め、何が変わったのかを残す。記録は報告のためだけではなく、次の人が同じ現在地から考えるためにあります。

更新する。 結果を見て、計画や役割や手順を変える。最初の決定を守ることより、現実に合う航路へ引き直すことを優先する。

この循環が機能していれば、会社の中心は特定の会議室だけに置かれません。反対に、どれほど立派なオフィスがあっても、情報が統合されず、判断が実行へ渡らず、結果が更新に戻らなければ、本社機能は止まります。

クラウドやAIは、この循環を支える道具になります。場所ごとの情報を集め、整理し、決定を実行へつなぐことはできます。ただし、責任ある判断まで技術に預けることはできません。何を事実として採用し、どの価値を優先し、誰が結果を引き受けるのか。それを決めるのは人です。

技術が会社を無場所にするのではありません。異なる場所の現実を、同じ判断面に載せるための補助線になるのだと思います。

距離は、組織の曖昧さを露出させる

二つの場所から会社を動かせば、自然にうまくいくわけではありません。

同じ部屋にいれば、表情や空気で補えたことが、距離を置くと伝わらなくなります。誰が決めるのか。どの資料が正しいのか。いつまでに、何をもって完了とするのか。言葉にしていなかった曖昧さが、動作不良として現れます。

移動には時間と費用がかかります。情報が一方へ偏ることもあります。画面越しでは、現場の温度や違和感を拾いにくいこともあります。情報管理、労務管理、権限設計も、便利な道具を入れるだけでは整いません。

だからこそ、分散した運営は組織の設計を試します。

判断基準を共有できているか。情報の正本は決まっているか。責任と期限は明確か。現場でしか分からないことを、現場に行って確かめているか。距離は、組織の弱点を増やすだけでなく、もともとあった曖昧さを見える形にします。

見えた曖昧さを一つずつ直す。その積み重ねが、場所が変わっても動ける本社機能をつくります。

二つの都市の「あいだ」に中心を置く

東京か、北海道か。そのどちらか一方を会社の中心に決めることだけが答えではありません。

東京で見える速度と、北海道で見える持続性。制度や資本の動きと、土地や季節の現実。二つの視点の差を消さず、比較し、翻訳し、判断へ変える。その働きは、どちらかの都市のなかではなく、二つの都市の「あいだ」に生まれます。

ここでいう「あいだ」は、地図上の中間地点ではありません。事実を共有し、判断を渡し、結果を戻す仕組みのことです。

私たちは、本社機能をこう捉えています。

会社が現在地を共有し、次の方向を決め、実行を更新し続ける能力。

住所は、その能力を支える大切な基点です。ただ、会社の中心を本当に形づくるのは、同じ場所にいることではなく、同じ事実から考え、責任を持って動き、結果に応じて変われることだと思います。

移動には予定があります。現実は、その予定どおりには動きません。

だから、現在地を測り続ける。必要なら航路を引き直す。二つの都市のあいだに、建物を増やすのではなく、判断が動く本社機能をつくる。

私たちは、そこから始めています。

参考資料

TOKYO / HOKKAIDO